結婚観のすり合わせ~10年のカウンセラー経験から見た成婚と破談~
結婚観が一致する相手は、たぶんいません
結婚相談所を10年営んでいました。その間、30代の女性から最も多く聞いた相談が「結婚観のすり合わせ」です。
「子どもが欲しいけれど、相手が同じ考えか分からない」
「仕事は続けたい。でも、相手はどう思っているんだろう」
「家事の分担って、どう切り出せばいいんですか」
こういうご相談を受けるたびに、私はいつも同じことを思っていました。結婚観が一致している二人を、私はほとんど見たことがありません。
とくに男性は、そこまで具体的に考えていない方が多いのです。個性という観点から見ても、育ってきた環境から見ても、二人の結婚観が最初からぴったり重なることはない。そう思っておいたほうが、かえって前に進めます。
では何が成婚と破談を分けるのか。10年見てきて、私の答えははっきりしています。違いを、どこまで具体的に理解できるか。それだけです。
この記事では、実際に私が担当したお二人の話を交えながら、結婚観をどう切り出し、どう歩み寄るのかをお話しします。
1. 仮交際で終わったお二人。
同じ話をしていたのに、見ている先が違った
三十代半ばの男女でした。お二人とも正社員です。
女性は子どもを持つことを前提に考えていて、できれば産後は専業主婦か、パートに切り替えたいと思っていました。男性は正社員での共働きを希望していました。
きっかけは、仮交際のデートでの会話です。女性が「子どもは欲しい」と口にしました。返ってきたのが、この一言でした。
「共働きは、いまのまま続けてほしい」
女性はそこから、子育てをどう進めるかの話をしようとしていました。ところが男性が考えていたのは、収入のことでした。
同じ「子ども」という言葉を挟んで、二人の見ている先が違っていた。 女性は育児の話をしていて、男性は家計の話をしていたのです。
このお二人は、そのまま仮交際で終わりました。
女性が最後に言ったこと
交際終了のあと、女性から聞いた理由は「価値観が合わない」でした。よくある言葉です。でも、掘り下げていくと、そう単純ではありませんでした。
彼女はこう言いました。子育てをしながら正社員で働き続けるのは、正直きつい。けれど、共働きそのものを否定するつもりはなかった、と。
引っかかったのは別のところでした。
「子育てに協力してもらえそうな感触が、得られなかったんです」
つまり、争点は共働きの是非ではなかったのです。相手が結婚後に生活のかたちを変えるつもりがあるのかどうか。 彼女が感じ取ったのは、そこでした。「この人は、いまの生活をあまり変える気がないな」と。
2. カウンセラー側から見ると、二人の話はたいてい食い違う
仲人という立場のいいところは、両方の言い分を聞けることです。ご本人同士には決して見えない部分が見えます。
そこで何度も目にしたのが、「本人が思っている終了理由」と「実際に起きていたこと」のズレでした。
さきほどのお二人でいえば、女性の口から出た理由は「価値観が合わない」です。けれど実際に起きていたのは、「子どもの話をしていたら、お金の話が返ってきた」という一往復のすれ違いでした。この一往復で、彼女は「この人は子育てを軽く見ている」と受け取ったのです。
ちなみに、この男性が本当のところどう感じていたのかは、私には分かりません。お断りは先方の相談所を通してお伝えしましたので、男性側の声は届いていないのです。
そこは正直に書いておきます。私が見ていたのは、あくまで片側の窓からの景色です。 ただ、その片側だけでも、ご本人が気づいていないことは山ほど見えました。
3. 男性が条件の話をするとき、内側で何が起きているか
これは女性の会員さんによくお伝えしていたことです。
男性会員の多くは、結婚を感情ではなく理性で考えます。中心にあるのは「責任感」です。家族を持つとはどういうことか、養えるのか、この収入で足りるのか。そういう順番で頭が回っています。
ですから「子どもが欲しい」と言われたとき、男性の頭に真っ先に浮かぶのは、赤ちゃんの顔ではなく生活費だったりします。冷たいのではありません。彼なりの誠実さの表れ方が、そうなっているのです。
もうひとつ、面談でときどき漏れる本音がありました。
「自由に使えるお金が、減るんですよね」
「好きなことをやる時間が、なくなるのかな」
責めるでもなく、ふっとため息のように出てくる。この瞬間が、私にはとても印象に残っています。彼らは結婚が嫌なのではなく、これまでの生活が変わることに、静かに身構えているのです。
男性がいちばん身構える言い方
10年見てきて、これは間違いないと思っていることがあります。男性が最も身構えるのは、「察してほしい」というニュアンスを含んだ言い方をされたときです。
「言わなくても分かってほしい」
「普通、そう思うよね」
こう言われた瞬間、男性の中に浮かぶのは「自分にできるだろうか」という不安か、あるいは「面倒だな」という気持ちのどちらかです。どちらにしても、会話は前に進みません。
ここが分かれ目になります。察してもらおうとすると閉じ、はっきり伝えると開く。 次の話が、まさにそれでした。
4. 全部伝えたら、相手が働き方を変えたお二人
三十代後半の男女です。
女性にとっては、子どもを産むなら高齢出産といえる年齢でした。彼女は不妊治療に取り組んででも、40代の初めには産みたいと考えていました。
一方の男性は、そこまで「子どもが欲しい」とは思っていなかったようです。だから彼女は、なかなかその話を切り出せずにいました。重いと思われるのが怖かったのでしょう。
私が彼女にかけた言葉は、ひとつだけです。
「自分の思いのたけを、すべて伝えなさい」
具体的には、こういうことです。
– 自分の年齢だと高齢出産になる。それは命の危険さえある選択だということ
– 妊活となれば、病院に何度も通う。体調にも変化が出るかもしれないし、費用もかかること
– そのために、彼の仕事にも影響が出るかもしれないこと
不安に思っていることも、相手に負担をかけるかもしれないことも、包み隠さず全部話す。そうお伝えしました。
彼女は、伝えました。
結果、その男性は職場を変えました。何かあったときに彼女を、そして生まれてくる子どもをサポートしやすい環境へ。在宅で働きやすいかたちにも整えてくれました。
お二人は結婚し、彼女は40代の初めにお子さんを産みました。いまはお二人で育てておられます。
なぜ、この伝え方が効いたのか
婚活のアドバイスでは、よく「柔軟に考えていることも示して、相手を安心させましょう」と言われます。私も否定はしません。
ただ、このケースで効いたのは逆でした。彼女が自分の恐れも、相手にかかる負担も、隠さずに全部差し出したからこそ、男性は本気で受け取ったのです。
先ほどの「男性は理性で考える」という話とつながります。具体的な情報を渡されると、男性は考え始めます。
逆に、察してほしいという空気だけを渡されると、身構えて止まってしまう。
「思いのたけを伝える」とは、感情をぶつけることではありません。判断に必要な材料を、全部テーブルに載せることです。
5. いちばん多かったのは、「なにか違うな」で終わる人
破談の理由として、私が最も多く聞いた言葉があります。
「なにか、違うなって思って」
これです。圧倒的に多い。
そのたびに私は聞き返していました。
– 具体的に、どこが違うのですか
– どんなことが、どのように違うのですか
– 相手のどの言葉を聞いたときに、そう感じたのですか
正直に言えば、答えられる方は多くありません。ご本人にも分かっていないのです。
そして、この「なにか違う」を抱えたまま進んだ方は、たいてい大きな進展がないまま、お相手のほうから断られていました。あいまいさは、必ず相手に伝わります。
「なにか違う」と感じたときに、私がお伝えしていたこと
とはいえ、その感覚を無視しろとは言いません。「なにか」を感じているのは事実ですから。
ですから、こうお伝えしていました。
その感覚が「イエス」なのか「ノー」なのか、はっきり分かるところまでは、お付き合いしてみませんか。
分からないまま切るのは、もったいない。分からないまま進むのも、うまくいかない。分かるところまで行ってみる。 これが現実的な答えだと思っています。
6. いつ切り出すか。相談所の交際は、恋愛と進み方が違う
「結婚観は早めに話し合いましょう」とよく言われます。この「早め」の意味が、少しややこしいのです。
結婚相談所の交際は、恋愛とは順番が違います。仮交際に入った時点で、お互いの年収も、家族構成も、結婚したい時期も、プロフィールを通してすでに分かっています。手の内は最初から見えている状態なのです。ですから相談所でいう「早め」は、世間の恋愛でいう「早め」よりずっと踏み込んだ話を指します。
そのうえで、10年見てきた実感をお伝えします。
ごく早い段階で切り出した方は、結果がはっきり出ます。通るか、通らないか。良くも悪くも白黒がつく。時間を無駄にしない、という意味では悪くありません。
ある程度お付き合いを重ねてから切り出した方のほうが、受け止めてもらえるケースが多かったというのが正直なところです。理由はおそらく単純で、そこまでに二人の感情がつながっていたからでしょう。同じ言葉でも、誰から言われるかで届き方が変わります。
ですから私の答えはこうです。焦って初回のデートで確認する必要はありません。ただし、真剣交際に入る前には必ず。感情が育つのを待ちすぎて、後戻りできない場所まで来てしまうのが、いちばん傷が深くなります。
7. 結婚は「異文化交流の実験場」です
私が学んだACS個性診断の開発者の言葉に、こういうものがあります。
結婚は、異文化交流の実験場である
うまい言い方だと思います。個性も、育ってきた家庭の文化も違う二人が、同じ屋根の下で暮らし始める。まさしく実験です。
交際中に、相手の朝ごはんがご飯なのかパンなのか、意識する人はまずいません。ところがACSの講座では、和食派の男性が、結婚した翌朝に出てきたパン食をきっかけに破局に至った例が紹介されていました。
笑い話のようですが、笑えません。結婚観のすり合わせというのは、子どもや働き方といった大きなテーマだけの話ではないのです。毎朝の食卓が、これから何千回も続く。そのイメージが持てるかどうか。
会員さんには、いつもこうお伝えしていました。この人と暮らしている自分を、具体的に思い浮かべられますか、と。
まとめ:10年見てきて、私が思っていること
改めて、私の結論を書いておきます。
ひとつ。結婚観が一致する相手は、いません。とくに男性は、そこまで考えていないことが多い。一致を探すのではなく、違いを見つけに行くつもりでいたほうが、うまくいきます。
ふたつ。分かれ目は「相手をどこまで理解できるか」です。 違いをはっきりと理解して、それを認めたうえで、二人でどうするかを決められること。歩み寄りとは、どちらかが黙って我慢することではありません。違いを把握したうえで、二人で決め直すことです。
みっつ。「なにか違う」を、そのままにしないでください。 どこが、どんなふうに違うのか。言葉にできたときには、たいてい道が見えています。言葉にできないまま進んだ方は、相手から断られていきました。
よっつ。伝えるなら、全部です。不安も、相手にかける負担も含めて。男性は情報を渡されれば考え始めます。察してもらおうとすると、止まります。
なお、相談所での10年の成婚率は40%ほどでした。ただ、この数字に大した意味があるとは思っていません。あなたにとっての結果は、100か0のどちらかしかないのですから。全体の平均は、目の前のお一人には何の役にも立ちません。
結婚観に正解はありません。押し付けるのでも、我慢するのでもなく、「二人でつくる生活」を描けるかどうか。その一点だと、私は思っています。
まず、自分の個性を知ることから
ここまで読んで、「そもそも自分がどうしたいのか、よく分からない」と感じた方もいるかもしれません。
それは、ごく普通のことです。私が面談した方の多くが、同じところで立ち止まっていました。自分の結婚観が分からない人は、相手の結婚観を聞いても判断できません。
その入口としておすすめしているのが、ACS個性診断です。120問に答えることで、自分の個性が12の尺度でグラフになります。相談所時代から、200人以上の方にお受けいただいてきました。
大きい・小さいに良し悪しはありません。あなたがどういう発想をする人なのかが見えるだけです。でも、それが分かると、相手との違いも具体的に見えるようになります。
婚活相談所マナマナ 坂田芳弘
